原付板外伝 NS50F その1

ホンダ4stホビーバイクの王者がモンキーならば、2stホビーバイクの王者といえば
NS50Fの右に出るバイクは無いだろう。



MBX50の後継機として1987年に登場し
大きすぎず小さすぎない車体とパワーあふれるエンジンは
全国の原付小僧に学生にいい年した大人のマニアに
そして珍走まで全てのハートをガッチリと射止め大ヒット。

大きなタンクで長距離ツーリングも余裕でこなし、
直線番長も大満足。 峠もガンガン攻める事ができる。

原付バイクに降りかかった速度30キロ規制もどこ吹く風の
空前の2stゼロハンレーサーブームを作った主役と言えるだろう。



沢山の初心者ライダーを鍛え上げ、
「2stのカブエンジン」と言われるエンジンは
多くの若者にメカいじりの基礎を教えた。


時代は暴走族の最後の全盛期。
荒れる学校の前で小汚く彩られたNS50Fは
穴を開けられたマフラーから白煙と三味線の如く排気音を奏で


そして星の数ほどの若者が免停になり
隠れて無免許で乗った高校生は停学や退学になり、
心無い者に盗まれた多くのNS50Fは山で土に返り

また多くのNS50Fはアスファルトの染みとなって
持ち主と共にこの世から消えたか、人生を狂わせた。


後継車のNS-1とNSR50、他社のライバル車の登場で
一線を退く事になったものの、

その性能とスタイルは未だ色褪せる事なく
90年の生産終了後も、2007年まではHRC-NS50Rとして
レース専用車として根強いファンに支えられながらひっそり生き延びてきた。


07年のHRC-NS50Rの生産終了後の2008年の冬、
そろそろ部品が出なくなるかなと思って
放置していたベース車を生き返らせようとしたが
HRCとホンダの部品管理体制は違っていた。
NS50Rはレース車な上、ホンダとHRCは形式上は別会社という事になっている。
そんなわけでNS50Rは補修部品の保持期間もへったくれも無いのである。

NS50Rの生産終了後8年間は部品が出るだろうから
NS50Fとの多くの共通部品は安心!かと思ってたら
それが大間違いだった。


あれよあれよという間に在庫が無くなっていく各部品。
注文する部品がどれもこれも 「ご相談 在庫が1個〜数個」

こんな大事な消耗品まで欠品?もう無いの?

在庫は今はいっぱいあるけど在庫限り?
ダメになったら二度と走れなくなるじゃないか!などと言う部品が多数!

NS50Fの絶滅の日は近い。


今回のNS50Fは、運良く主要部品を新品でほぼ揃える事に間に合った
日本で最後の「幸運なNS50F」である








(゚Д゚)ハァ?



このNS50Fは管理人の友人のK君の兄上が新車で購入した物で、
2年ほど乗り回して飽きて放置、倉庫に数年間ぶちこまれる。

2000年ごろ、K君が倉庫から引っ張り出し
管理人に嫌々ボロボロの外装を水色に塗らせて
このような惨状にいじくり回し、また道路を走る。

だが一ヶ月もしないですぐ飽きてまた倉庫にぶちこまれ、
持て余して管理人に押し付けていったものである。
いかにもNS50Fらしい人生と末路。 だが幸運にも倉庫内で放置。



モンキーの場合、さんざんいじくり回されて糞になるパターンが多いが

NS50Fもモンキー同様、いじくり回される上に峠などでバンバン転ぶような
手荒い使い方をされるし、モンキーのように各部品も安価ではないので
新規フレームを注文してまでレストアされる事もほとんど無く

どんどんスクラップにされるか、運良くスクラップ置き場から救出されても
だいたいはレース車に仕立て上げられるか、部品取りにされ
気が付けばあんなに走っていたNS50Fも今じゃめったに見られない絶滅危惧種に。


モンキーは色々と安いので、例えフレームの首部分だけになっても
車体番号部分さえ無事ならマニアが執念で復活させますがね。


星の数ほどあった社外パーツも少なくなり
純正部品も欠品まみれになり、いよいよホンダも本気でNS50Fを殺しにかかってきた。


このNS50Fはどうかな? レストアする価値があるだろうか?
まず全部ひっぺがして点検しないとね。
車体番号はAC08-1419042のNS50FK-2で元色はグラニットブルーメタリック-U。

では分解点検スタート!



走行距離約19000キロは実走です。

遠目には単なるネイキッド仕様だが
おやまあ素敵なエーモンステーですこと。


そう! NS50Fに限らずいじくられバイクといえばエーモンステーカスタム!
むしろこれが無いと落ち着かない。


もうね、ピンボケなのは
「あわわわ…もう何がどこまでどうなっているのか…」
と、もう写真をゆっくり撮影している余裕など無いからです。

撮り忘れてましたが、インナーフェンダー後部も外され、ナンバープレートも
エーモンステーで吊り下げられたインチキフェンダーレス仕様になっていました。



…K君はネイキッドキットを買わずに
ライトステーとライト一式だけを買ったようです。

※K君は当時、バイク屋にあったデイトナのカタログだけを見ていたようで
使えそうなものを自分なりに選んだのだろう。
すでにデイトナのNS50F用ネイキッドキットは絶版だった。
もしも当時キタコのカタログを見ていたらちゃんとしていたかも?

メーターはまあ、ブラケットを買ってないからステーを自作しなければと理解はできるが
なんでテールにそんな事をするのやら。



ウインカーの配線でございまする。
オスギボシにむき出しにした芯線を通して巻きつけ
テープでぐるぐる巻きという、まさかの尿道ファック!



じゃあウインカーのアース線は?
まさかのギボシ端子ライトステー押さえつけ。
さすがK君!管理人にこんな発想は無理。

※ちぎれているものの、挟めていたライトステーのゴム板が厚い物だったので
ギボシ端子がゴム板にめりこみ、フォークに傷は無かった。

メインハーネスをライトステーにタイラップで巻きつけてあったり…。
あーレストア前の写真もっと撮っておくんだった。
あまりのひどさに撮影している心の余裕が無かった。



ハザードスイッチが追加されていますな・・・こんなものいりませぬ。
管理人はオリジナル状態のまともなNS50Fを見た事が無い。

どこの何がどういじくられているのかはわからないので
パーツリストとマニュアル見ながら手探り状態。



ウインカー配線にもハザード追加のために割り込みタップが。
これも患部を切り取り、同じ色の配線をハンダ付けで継ぎ足し
純正と同じ新品カプラを使って補修します。



このフォークを固定するボルトが片側、固着してる上に
なめててバイスグリップも通用しない。
やすりとグラインダーでボルトの頭だけを奇麗に削り飛ばし、他に全く傷を付けずに
ハンドルとトップブリッジを無傷で外す事が出来た。 画像は削っている途中。

わずかな腕の震えも許されない。
重いグラインダーをガッチリ保持する手に汗がにじむ。
余計な所まで削れているように見えるけど、
ささくれた鉄がめくれているだけです。
ハンドル本体は無傷ですよ。

なんだかんだで削っている時の高熱で固着が溶けたようで
最後の仕上げ削りの直前に振動でゆるんだのだ。 よかったよかった。
でもネジ山に特に錆びなどが見当たらない。

前の持ち主がギチギチに締めたんだろう…
と思ったが、部品取りにフロントフォーク一式を買ったら
やっぱりそれも苦労してこのボルトを外した形跡がある。
ここが固着するのはお約束?

※ピンボケばかりなのはレンズに油が飛んでいたようです。



テール周りを取り払い、周辺に加工や嫌な痛みが無いかチェック
これは純正テール一式のままだからいいが
NS50Fの社外テールカウル一式はフレームの一部を切断して付ける物もあるので
レストアベースで社外テールが付いている物は注意して買いたいね。

全体的に油と泥の混じった汚れだらけだが
そのおかげもあってひどい錆びや腐食などが少ない。
洗剤とナイロンブラシと歯ブラシでのお掃除が大変だ。
フレームの錆びは軽く磨いてタッチアップぬりぬり程度に。



きゃあああああ
一見ゴチャゴチャしてますが整理していったら
メインハーネスのウインカー用の黒線を切って分岐タップでリレーのコードをつなげただけで
全て取り払い、黒い線を補修するだけで済んだぞ。

もうこのハザートキットのどの線がどこにつながっていたかわからない。
けどもハザードキットなんて付け直す気はありませぬ。 だからメモしない。

もし仮に付けるにしても管理人ならメインハーネスを傷付けないように
割り込み配線一式を作りますよ。


※まあ当時は今ほど純正色配線や、
純正と同じカプラ類の入手経路などの情報がロクに無かったので
配線加工関係はどうしても純正ハーネスに傷を入れる事になりがちですがね。



車体右側
CDIや電装品などはノーマルのようですが、あとで出てきますが
改造は「レブブースター」が付けられていただけでした。

弁当箱のようなCDIは重く大きいので
ゴム製のCDIケースのフレームにくくりつける部分がヘロヘロになり
CDIが振動で激しく揺れるのでテープで巻いてフレームに固定されていますな。

このCDIケースも2009年1月で在庫が1個しか無かった。 たぶん今はもう無いだろう。
2個欲しかったのだが一個だけ… 1個あっただけでも幸運だけどもね。



とりあえずチェンジペダルとステップ一式を新品に。

ステップ取り付け部はフレームに直に付いているのだが、フレームの構造上
左に転倒するとステップが地面に当たり、フレームごと内側に曲がります。
チェンジペダルの角度と比べるとわかるでしょう?

これはMBX50とNS50Fの悲しき宿命。
曲がってない中古のほうが少ないでしょうな。

※右はマフラーが犠牲になってくれるので、
右側が激しく曲がる事は少ないようです。

このフレームもステップ取り付け部の根元にガリ傷などは無いものの
やっぱり根元から曲がっています  が  これはまだまだマシな部類。

他の中古車や中古フレームなどはこんなもんじゃない。
完全にめりこんでいる物など当たり前。


曲げ戻そうにもそう簡単にはいかない。
ハンマーなどで叩いたって傷が付くだけで余計ひどくなるだけ。

フレームだけにして歪み防止にジャンクのクランクケースを搭載して
かなりパワーのあるバーナーなどで炙りながら専門工具で曲げ戻すしかありませぬ。
専門店にでも依頼しないとまず奇麗にはいかないだろう。

素人が無理に直そうとするとなおさら重傷になると思うので、
あえて何もしない事にした。



ハンドルストッパーの痛みも無いぞ。
とりあえずレストアベースのフレームとしては悪くないようだ。



ブレーキは生きているけど錆び錆びで油汚れドロドロ。
フロントフォークはインナーに点錆びが少々と、アルミ錆びで黒塗装が浮いてボロボロ。
オイルシールは完全にひび割れています。
ディスクは使用限界の厚さ3.0ミリには達してないものの
そこそこ減ってきておりまする。



フロントホイールリムに歪みがあるので、中古の同じホイールを探したぞ。
タイヤはまだ余裕で使えるので移植する事に。

リムが歪んでいるという事は、大きな衝撃を受けたか
パンクしたまま走ったかどちらかだな。

フロントフォークにダメージが無いか検査しないといけませぬ。


なんか前足関連の整備だけでレストア費用の半分はかかりそう。
床がコンクリートの倉庫の奥での保管だったのでこの程度で済んでだけども
屋外放置だったら完全に再生不可能だったなと。


なんだかんだでエンジンも固着していないし
クランクケースに転倒傷は一切ありませぬ。

おお?見た目はひどかったがそんなに悪くない?
レストアベースとしては65点といったところか。




さて、管理人は荷台が大好きで、どんなバイクでも
装備できる純正アクセサリー荷台があれば必ず買う。
そもそもNS50Fに荷台なんかあるんだろうか?


しっかりホンダアクセスの純正サイドキャリアがあった。
運良く新品をオークションで入手。


なになに 通学カバン等の・・・ ほほう


大学ならともかく、NS50F全盛期の頃の「荒れた高校」の時代に
毎朝学生カバンしっかりキャリアに縛り付けて
NS50Fに乗って毎日高校にきちんと通う奴なんかいたのかねえ?



おお、さすが純正 ぴったり付くぞ。

フレームの後部ステーに付ける3番のボルトは20ミリなのだが、どうやっても長さが足りない。
同じフラインジボルトの25ミリを用意したらぴったり。
ホンダアクセスのオプション部品はたまにネジの長さの指定がおかしい時がある。

もしも右ステップが転倒で曲がっていたら装着できない。




もう樹脂パーツはヒビ割れと変形ばかりでほぼ全滅。

ツールボックス内部の注意書きステッカー
「大切なものを入れる場合はご注意ください」…か。

あなたの大切なものは何ですか?

昔NS50F乗ってたあなた、ここに非常用とか言って
缶詰とテレカと小銭と1000円札入れてたりしてたんじゃないのか?

でも1000円札は我慢できずにすぐ取り出して使っちゃうんだよね。
で、結局缶詰なんか食いやしないの。

やってたんだろう?隠しても無駄だぞ m9(・∀・)お見通しだ!
むしろそんなもん入れるより包帯とタオルでも入れておいたほうがいいね。




ウインカーは同じ形のプレスカブ用のを掲示板の常連から大量にもらったので
配線を延長して装着しました。

加工・補修時のギボシ端子もきちんとキタコやデイトナなどのホンダ用のを使用。
※ホンダのギボシ端子は通常市販されている物より
0.5ミリ直径が小さい規格です。

ホンダのハーネスに市販のギボシを使うと
メスギボシが広がってしまいダメになりますよ。


本当はウインカーステーの土台のパイプに配線を通すのだが
ギボシ端子が二個並ぶから物理的に通せない。

たまに「これ製造工程で、部品を装着して配線通してから
ギボシ端子とか付けてるんじゃねえの?」と思える物がある。

例えばCD50のリアフェンダーのテールランプASSYを交換した事のある人なら
この苦しみがわかると思う。



今回再利用できた樹脂パーツはブレーキランプASSYだけ。
リアフェンダーAは今回は取り外されて存在しなかったが
ウインカーステーが付いているため転倒すると破損する率が高い。
NS50Rに使われていないので破損&劣化していない中古を見つけるのは困難。

リアフェンダーCは構造上、力がかかる事もなく
日もあまり当たらない箇所なので中古でも無事な物が多い。

そして一番悲しいのはリアフェンダーBである。
ここの二箇所に亀裂が入っている物がとても多いのだ。
構造上、引っ張りの力がかかる個体もあり、劣化もしやすいので
自然と壊れやすいパーツではあるのだが、そういう話ではなく、

優しくゆっくり手作業で締め付けるべき構造のパーツなのに
ホンダの製造工場ではどうやらインパクトを使っていい加減に組んでいるようで
新車の時点でナットがめり込み、このフェンダーが割れている事がとても多いのだ
これはNS50RだけではなくMBX50もNS50Fでも雑な工員と丁寧な工員がいたようで。

NS50Rの新車外しのリアフェンダーBをいくつも見たが
ほぼ確実に割れているか、ナットが深々とめり込んでたり
空回りするようになってたりと。 ・・・何をしているんだホンダは・・・。
そしてもちろん欠品。 管理人が今回使うために買ったのが最後の一つでした。
FRPでレプリカを作るには複雑なのでまず無理でしょう。

このリアフェンダーBが無いとオイルタンクが装着できないという重要なパーツなのに。
この素材はプラリペアが通用しない軟質樹脂である。



このブレーキランプ一式もこれ書いてる時点で「ご相談」で在庫が少ない。
というかもう無いかも。
保安部品すら供給を止めるとは…。
これレンズを固定するタッピングビス用のネジ穴がバカになったらどうするんだ…。
パーツリストではレンズとベースはそれぞれバラで買えるが、出なくなるのも時間の問題だろう。

球切れのたびにビクビクしなきゃならんとは…。
まさかNS50Fにこんな日が来るとは想像もしてなかった。

ひょっとしたら配線の色や長さが違うだけで、
他の車種で同じテールASSYを使っているのがあるかもしれない。
誰か知っている人がいたら教えてね。


ツールボックスやインナーフェンダーなどもこれ書いてる時点で在庫が少なく、
特にこの裏で固定するブラケットは、上のは在庫がこれで終わり。

下側のナンバープレートステーブラケットは
オークションのNS50Fジャンクパーツ詰め合わせに混じってて
運良く程度の良い物が手に入った。

この板ブラケット、なぜか知らないが
NS50Fの中古テールまわりはそこそこ出品されているのに
なぜか付けて売る出品者が少ないので意外と入手が難しい。
出品するなら付属品もちゃんと付けやがれ。



とりあえずお尻の内部は一応完成
リアスイングアーム関連は特に痛みなどは無いようなので
汚れ落としと注油程度にしておきました。


サイドキャリアは装着したままでも右サイドカウルの脱着は可能。




NS50F編その2



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